安穏フェスティバル
■安穏フェスティバル その1
ここのお寺では一年で一番大きい行事に
安穏フェスティバルというお祭りがあるようで
その為の準備を研修生が来る何ヶ月も前からやってました。
研修がこの時期にあるのも棚経や安穏フェスティバルなど
一年で一番忙しく濃密な時期だからです。
この安穏フェスティバルにはたくさんのお客さんが来ます。
それはお寺に遊びに来るというだけでなく
お寺に宿泊する人もたくさんいるのです。
なのでこういった特別な行事の前のお寺の中の掃除は
普段の作務と比較にならないほど丹念に行いました。
作務でも毎朝やるお寺中のモップがけはもちろん
長い棒を使って天井についてる蜘蛛の巣取りから、
はたきをかけて埃を落とし、畳の部屋なら全部屋掃除機がけをし、
廊下なら雑巾がけ。
トイレ掃除から下駄箱拭きから
窓拭きや障子の枠の部分も綺麗に雑巾で
拭いて埃をとります。
土間にもほうきでゴミをとった後は
水溜りができるくらい濡らします。後で埃が立たない様にです。
ドラマなんかでよくみる姑が嫁に
指で家具の上をなぞってまだ汚れてるわよ
なんてシーンがありますが、
あれも現実にあるんですよ。
よく細かいところまでチェック
されてましたね。勿論ドラマみたいに悪意があって
やってるんじゃなくて、それくらい完璧な状態でお客を迎える
意識でやるという事なのでしょう。
■安穏フェスティバル その2
まあ仕事ですからわかりますが
仕事以外の私生活でも突然部屋のチェックをされることもありました。
自分の部屋はもちろんいつも使ってる風呂や
トイレも毎週掃除しなくてはいけないんですよね。
トイレのスリッパひとつとっても
脱いだ後綺麗に並べてないと注意されますし、
いつも使ってる洗面台やその周りなどの、お客さんには見えない
普段の生活スペースも、仕事以外の時間に
綺麗に掃除しておかなくてはいけないですよね。
それは「普段の綺麗にしている心がけが
お経や太鼓、普段の仕事に出るんだよ」とのこと。
これだけ普段からお寺というのは
掃除を欠かさず綺麗にしているわけです。
鎌田さんには「綺麗になると心が洗われるだろ?」
といわれましたが、後になってみると確かにそういった感性は
大事だよなあと思ったりもしました。
風水なんかでは玄関やトイレを綺麗にしておくと
運気が上がるなんていいますし、
とにかく掃除をして綺麗になると気分が良くなる事は確かです。
事務仕事一つとってみても
終わったあと必ず机の上を綺麗に片付けて終わるように言われましたが、
ビジネス雑誌を見ても出来る人の机の上は綺麗なんて言いますから、
机の上を綺麗にするのもお寺を綺麗にするのも
通じるものがあるんでしょうね。
■安穏フェスティバル その3
毎年妙光寺では
八月に安穏フェスティバルという
祭典を行います。
妙光寺の墓地の法要を兼ねたお祭りでして
法要以外にも、出店が出たり、著名な人の講演や
様々な人達との交流パーティーなどの行事があります。
これがまた大規模で
一年を通じて一番大きい行事なのです。
言ってみれば研修中でもっとも忙しい行事です。
これの準備のために何ヶ月も前から準備を
するのです。
交流パーティーでは盆踊りみたいなものがあって、
楽器の演奏をしなければいけないらしく妙光寺にきて三日目には
研修生までかりだされて交流パーティーでの演奏の
檀家さん達と一緒に練習をさせられました。
和太鼓か笛を選べと言われたので
私は太鼓を、矢部さんは学生時代チューバをやっていたらしいので
その事から笛を担当することになりました。
ただ太鼓に比べたら笛は難しそうで、
矢部さん曰く、金管と木管は全然違うらしく
ただえさえ忙しいのに
夜は部屋で自主練習をするはめになっていました。
坊さんは色々な事が
できないといけないようです。
■安穏フェスティバル その4
お寺では本当に色々な事を全て自分でやります。
要するにあまりお金をかけられないのでしょう。
世間的にはお寺は裕福、みたいな印象があるのかもしれませんが
どうも、妙光寺に限らずお寺の経営というのも楽ではないようです。
そんなわけで
演奏する舞台も檀家さんとお寺、
みんなで作りました。
皆で力をあわせて運んだ
巨大な舞台の部分部分をつなぎ合わせ、
そして鎌田さんが持ってきた工具ですが
大工さんが持ってるような道具を自前で持っているらしく、
バスバスッと銃のようなもので
釘を撃ち、木を止めていきます。
ほんとに坊さんかよというほどの速さ。
普段はお寺の設備管理もされてますから、
こんな事もできなくてはいけないのでしょう。
しまいにはよしお前らもやってみろと言われ
試しにやることになりましたが意外と気持ちいいものです。
このお寺にいたら、将来的には
丸いノコギリでウィーンと草を刈る道具ありますよね、
あれもやらなくてはいけないみたいですし、
しまいにはユンボの免許も取らなくてはいけないみたいです。
巨大な垂れ幕を何枚もお寺の玄関にかけたり
お寺の駐車場でライン引きやったり。
これ全部真夏のあっつい時期にやるわけですから、
もうほとんど土方です。
この時期は毎日残業ですから
夜は檀家さんとの打ち合わせやパンフレット作り、
請求書の管理、発送やらの事務仕事などなど
幅広く仕事をこなしていくわけです。
■安穏フェスティバル その5
本番の前日からたくさんのお客さんが
お寺に来ます。
檀家さんだけでなく、別のお寺のお坊さん達やボランティアの人、
海外からお寺の勉強に来る人も泊まりに来ますからお寺は満室。
当然矢部さんと私も、私の六畳の部屋に二人で生活です。
たくさんの客さんが、普段私達研修生が使っている
生活スペースを使いますから、まあ汚れるのが早い。
洗面台も何回拭いてもすぐびしょびしょになるし、
トイレのスリッパも日ごろは気にして綺麗に並べているのですが
たくさんのお客さんが泊まっていると
何回綺麗に直してもすぐにバラバラになってしまいます。
仕事も忙しくなって来ている時ですので
いちいち戻すのも面倒臭くなり・・・
トイレの外を見て寺務さんがいないのを確認したら
ダッシュでその場から逃げたこともあったりなかったり・・・
まあ一年で最大のお寺の行事ですから
そんなこんなで慌ただしい訳です。
■安穏フェスティバル その6
いよいよ本番当日。朝起きて、
お勤めの為に本堂に向かいますが
廊下で寝ている人もいたみたいで想像以上のお客さんの数でした。
いつもの朝のお勤めをしていると
他のお寺から来た坊さん達が一緒になって後で
お経を読むのでなんとも壮大、合唱団みたいでした。
本番中は出店があったり、どこどこ大学の先生が来て
講演があったり、テレビカメラも来てます。
また、色々なお寺から来ているたくさんの坊さん達で
お墓の前での法要があります。
その坊さんたちは声明(しょうみょう)というお経を読む人達で、
その世界では結構有名な人達らしく、
どんなものかと興味しんしんで覗きに行ったら、
研修生もそれに参加しろと突然言われ
たくさんの坊さんがお経唱えてる後の席に座りお経を読むことに。
しかもその席は、たくさんの檀家さんの座っている座席の中でして、
その上また、近距離でテレビカメラが撮影してるし、
色々な状況が重なってえらいやりづらい読経でした。
その声明のお坊さんの、コーンという鐘の合図で太鼓を叩き始めるのですが
広い墓地でやってるので音が小さくて聞こえず、結局叩きおくれてしまいました。
「研修生だから間違えるのも仕方ないかー」、なんて思われてるのだとしたら、
ちょいと納得いかないですね。
これがテレビで放送されてないことを願っています。
声明自体はすごい綺麗でした。
できれば落ち着いてゆっくり聞きたかったです。
■安穏フェスティバル その7
その後の交流パーティーでは、
研修が始まってから練習していた太鼓を叩き、
笛吹いてみんなで盆踊りをし、食事するわけです。
研修生はもちろん席に座って飯は食えません。
お祭りでよくある、ジュースやビールが入ってる
でかいクーラーボックスのところで、飲みたいお客さんがきたら
冷たい氷の中に手を入れて渡す仕事をしてました。
差し入れしてくれる他のお寺の坊さんもいて
研修生と鎌田さんと他のお寺から来た坊さん達と
クーラーボックスの所で談笑してました。
祭りのトリになります、盆踊りです。
「ドン、ドン、ドン、ピーヒャラ、ピーヒャラ」
太鼓がリズムを取り、笛が伴奏し、皆が甚句を詠い、
その演奏の周りをたくさんの人達が囲み踊るのです。
日は沈み、月が出て、心地よい夜風が吹く中、
安穏フェスティバルのクライマックスです。
日本の情緒のある景色がそこにありました。
この時、後の松の木からムササビが飛ぶ姿が見えました。
空は澄み、星も綺麗でした。
何度も味わいたくなる瞬間だったと思います。
その後、歓談、
九時ごろ安穏フェスティバル終幕。
えらいもので誰一人帰ることなく皆で片づけをし、
何ヶ月も前から準備してきた、
今年の安穏フェスティバルはこれで終わりを迎えました。
終了後、まだ飲み足りない人達だけは
残ってお寺で夜中の3時ごろまで飲み続けていたようです。
私は付き合いきれずに12時にはさっさと部屋に上がり就寝。
普段は静かな夜ですが、笑い声が聞こえながらの
就寝はこの時が初めてでした。
この安穏フェスティバルを過ぎると、
一気に秋が近づいてきたような気がします。
夜にも涼しい風が吹き始め、
この研修生活もそろそろ終わりが近づいていました。
おわり
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